4パワハラ関連法上のパワハラとは何か①優越的な関係を背景とした言動であること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること、③これによりその雇用する労働者の就業環境が害されることの3要件をすべて満たす場合にパワハラとされています。「優越的な関係」かどうかは、形式的な上下関係だけでなく、実態上の力関係が重要です。叱責は、対象となっている行為の内容や、当事者間の信頼関係の有無によっても評価は異なってきます。就業環境が害されたかどうかは、平均的な労働者の感じ方が基準とされ、受けた方の主観だけで判断するわけではありません。5部下に対して「馬鹿野郎」「給料泥棒」など叱責した事例で違法なパワハラとして認定された事例や、上司が部下に対して「おい、おまえ」など粗暴な言動を用いたことについて「不適切ではあるが、部下が上司に反発するばかりで自らの態度を省みようとしなかったなど一連の経緯に照らせば、上司の行為は違法とまではいえない」と判断された事例もあります。「不適切ではあるが違法とまではいえない」という判断がなされていることからも分かるように、あくまでも違法性があるかどうかという観点からの判断である点には注意が必要です。2労働施策総合推進法が改正され、事業主にパワハラ防止措置が義務付けられています。事業主が講じなければならない措置を具体化した指針では、①事業主の方針等の明確化およびその周知・啓発、②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるパワーハラスメントにかかわる事後の迅速かつ適切な対応が求められています。また、役員個人も、パワハラ問題に関する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うことが努力義務として定められています。6「どこまで許されるか」といった話ではもちろんなく、めざすべきは「お互いを尊重し合えるようなコミュニケーション」のあり方です。パワハラまたはそれに近いことが行われている職場では職場全体のパフォーマンスが下がり、離職率も上がります。逆にパワハラ防止にしっかり取り組むことによって、職場全体のパフォーマンスも上がってくるという関係にあります。パワハラにあたるかどうかだけで問題を解決しようとしては駄目で、パワハラといえなくても労働者の辛い状況が分かっていて手を打たない場合は、安全配慮義務違反が問われます。一方で上司が注意すると何でもパワハラと相談する事例も残念ながらあります。上司自身が自信を持って部下と接することができるように、ハラスメントにならない接し方について研修の充実や、相談窓口に上司自身も気軽に相談できるようにすることも大事です。こうした風通しのよさも含め、それぞれがレベルアップすることで良好な職場環境を維持していくことが大切です。16中なか山やま 弦げん2006年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)名古屋第一法律事務所所属2020年6月よりコープあいち有識者理事。有識者理事とは学識者や弁護士、会計士などの専門家として、社会的な 視野からの意見を生協の運営に反映させ、生協の日常的な業務執行の状況についても専門家の立場から監督します。さん パワハラに関しては、労働者からの損害賠償や労災の相談、会社からの「従業員からパワハラ被害の声が上がっているがどう対応すべきか」といった相談や、パワハラの加害者として懲戒処分を受けた方からの「処分に納得できない」といった相談など、さまざまな局面、立場からの相談があります。私は、労働事件を比較的多く取り扱っていますが、パワハラをめぐる相談は近年大変多いのが現状です。今回は、そんなパワハラの防止法制をテーマとしました。法律だけで答えが出ないことも多い問題ですが、パワハラ問題を考える機会にできればと思います。はじめにパワハラ防止法制の基礎知識パワハラが問題となる局面 3~「これってパワハラですか」の前に具体的にどのような場面が問題になっているかを離れて、抽象的に「パワハラに該当するかどうか」だけを議論してもあまり意味はありません。例えば、「指針」でも「パワーハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応し、適切な対応を行う」ことが求められています。また、パワハラを理由に懲戒処分にする場面では、パワハラに該当するかどうかとは別に、処分の相当性や適切性について別途検討が必要です。パワハラ行為に関して組織として法的責任を問われる根拠としては、使用者責任や安全配慮義務違反があります。安全配慮義務違反については、たとえパワハラに該当しない場合でも、不適切な事態を知りながら放置することについて法的責任が生じる場合があることに注意が必要です。裁判事例からめざすべきコミュニケーションのあり方有識者理事から学ぶ専門分野から2030年のビジョンを踏まえて、コープに期待することや情報をご提言いただきます。パワハラ防止法制
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