2024年 コープあいち通信9月号
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中なか山やま 弦げん2006年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)名古屋第一法律事務所所属2020年6月よりコープあいち有識者理事有識者理事とは学識者や弁護士、会計士などの専門家として、社会的な 視野からの意見を生協の運営に反映させ、生協の日常的な業務執行の状況についても専門家の立場から監督します。さん 歴史的には人権を守るべき主体は国家とされてきましたが、国家だけでは人権尊重社会の実現には不十分であることから、企業も責任を持って人権の保護・伸長に主体的役割を果たすべきとの考えが生まれました。それを決定づけたのが国連人権委員会で全会一致で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」です。人権に関する基本的ルールを守れない企業は市場から排除される流れにあります。ビジネスと人権に関する指導原則は、人権が尊重される社会を掲げるSDGsとも表裏一体の関係にあるといえます。人権リスクが事業に与える影響リスクは企業・組織にとってのリスクではなく、人権侵害を被る人にとってのリスクです。人権課題を洗い出す中で人権侵害の深刻度によって優先度をつけますが、深刻度も企業にとっての深刻度ではなく人権侵害を被る人にとっての深刻度と捉えなければいけません。「責任あるサプライチェーン等における 人権尊重のためのガイドライン」に基づいてサプライチェーンにおける人権課題の取り組みが鍵であるとして、2022年に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定されました。自社のサプライヤー等に対して一定の取り組みを要求する場面では、共に協力して人権尊重の課題に取り組む姿勢が重要となります。具体的には、人権方針を策定して社内外に周知すること、人権デューデリジェンスを実施すること(企業が関与しうる人権への負の影響を洗い出す、問題が見つかれば防止・軽減をする、実効性を評価する、対処した結果を情報開示する)、苦情メカニズムの設置(負への影響を引き起こしていることへの救済)が求められます。5おわりに人権課題やリスクは多岐にわたり、かつて問題と意識されなかったことがクローズアップされています。常にアンテナを高く掲げて内外を見渡すことが重要で、人権リスクはあることを前提にわれわれの組織はこういう取り組みをしていると前向きに臨むことが重要です。1343昨今、企業に対して期待されている人権対応は、パワーハラスメントといったいわゆる従来型の人権侵害場面に留まらない広がりがあるのが重要な点といえます。同時に、人権リスクは事業リスクでもあり、売り上げ減少、コスト増加、企業価値の毀損といったマイナスの影響を与えます。他方で、人権リスクはある意味では事業機会、成長機会でもあると捉えられます。世の中の人権課題を解決する一員として積極的に取り組むことで、結果売り上げ増加や企業価値の創出に結びつくことにつながります。はじめに旧ジャニーズ事務所の性加害問題は、マスメディアや所属タレントをCMに起用している企業、番組スポンサー企業等についても厳しい目が注がれ、いろいろな議論がありました。人権侵害を起こした企業と関係性を続けることが人権侵害を助長する、あるいは許容することになるという視点があります。これらをSNSの広がりに伴う世間的圧力の高まりという程度で捉えていると、問題への対応を見誤ることになります。こうした動きの根底にあるビジネスと人権をめぐる世界的な潮流を押さえた上で考える必要があります。人権感覚は大きく変わっていくものですので、あらためてアップデートされた感覚で職場の内外の状況を見渡し、どこにどういう人権侵害リスクがあるのか考えることが必要です。2「ビジネスと人権」の基本事業活動を通じてハラスメント(近年は妊娠出産をめぐるマタハラやパタハラ、介護休職をめぐるケアハラ)、差別問題(性的少数者の人権等)、サプライチェーンを通じた間接的な人権侵害の関与(外国人研修生等)、製品そのものを通じた人権侵害(アスベストによる労働者や地域住民の健康被害等)、顧客のプライバシー権侵害(個人情報の流出)など社内外に人権侵害リスクがあります。有識者理事から学ぶ専門分野から2030年のビジョンを踏まえて、コープに期待することや情報をご提言いただきます。ビジネスと人権

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