近ちかもと本 聡さとこ子さん 元愛知学泉大学家政学部教授ご専門分野は、社会学、家族論、子育て支援論などです。2022年6月よりコープあいち有識者理事。有識者理事とは学識者や弁護士、会計士などの専門家として、社会的な 視野からの意見を生協の運営に反映させ、生協の日常的な業務執行の状況についても専門家の立場から監督します。133前回(2023年8月号)は若年層にフォーカスした話でしたので、今回は全体的な変化というものを私たちはどう受け止めているかについてお伝えします。考え方が多様にある構造変動をどう見るかというところを分かりやすくお伝えできるとよいと思います。個人と社会(集団)をつなぐ生活個人はいろいろな集団に属して社会を形成しています。個人が社会からどんな影響を受けるかを分析する際に3つの重要な効果があります。①時代効果は、そのときの社会全体からの影響で、10年ぐらい前まではテレビなどマスメディアから発信される情報が影響を与えていました。②コウホート効果とは、同世代の人々が醸して意識や行動に与える効果です。出生年が同じであることで集団としての特色を持ち、男女家庭科共修など教育の影響がありますね。しつけの文化などマインドも影響します。現在の大学4年生は1年時からコロナ隔離を体験し、オンライン授業が長く4年前に卒業した人と満足度が違います。③個人の加齢効果は、年齢とともに体の条件が変化するものです。先日の30年ぶりの同窓会では立席パーティーが困難でした。一人ひとりが数えきれない影響を社会・集団から受けながら生活をしています。2生きる活動生活上、影響を受ける要因があります。格差社会では、経済的ばかりでなく文化的な階層があります。文化格差、階層性は教育の機会と連動します。日本は教育の機会平等を確保していますが、教育自体(特に幼少期)が家族任せであるため、家族の経済階層に影響を受けます。教育や発達の機会を奪われた目に見えない貧困や育児放棄の課題もあります。「家族養育が善である」は神話となりました。消費社会化により衣食住を買い物で賄う文化が浸透しました。食事や衣服へのこだわりが多様化する一方で、買い物困難者も課題です。高齢化社会で高齢者数が多くなり、伴走する人も増えています。エンディングノートや自分らしい葬儀を考える機会も増え、死は忌み嫌うものではなくなり最期まで自分らしく、と考える時代になりました。時間は命であり、投入した時間でどんな満足感や達成感が得られるか、その人なりのタイムパフォーマンスのよさの重要性が増しました。家族変動とジェンダーのグラデーション化日本人は家族の連帯責任から解放されつつあります。ジェンダー・ギャップはまだ大きいですが、性別役割からの自由の方向性はあると思います。年齢による規範も薄れつつあり、扶養の義務は個人の責任へ変化していますが、家族制度が追いついていません。ジェンダーはグラデーションになろうとする時代です。例えば男性が女性のような性質になりたければなってもよいです。若い人々に普及し始めていますが、日本はG7で唯一同性婚が不承認です。他の先進国では2分法(男と女)ではなく多様な性が認められる社会となっています。例えば米国ではパスポートでも性を区別しなくてもよいことが確立しています。多様な性は自認を基盤としていますので、男女という社会的な分類を無意味化していきます。日本社会は制度を作る側の人々が疑問を呈さないため、生きやすい社会にするための制度変革がすすみません。4地域と経済主体(非営利も含む)江戸時代は貫徹した階層社会で身分が違うと排除されました。連帯責任と義務で成り立つコミュニティを壊した現代は、移動・職業選択の自由が保障されています。経済セクターは3つ(国家、市場、コミュニティ)あり、真ん中にアソシエーション(ボランタリー/非営利の組織) があるというのが協同組合の考え方の柱でしたが、今は違うと感じます。人々はどのセクターが優位と思ってはいませんが、お金に引きずられます。地域活性は多くのところで課題ですが、現状の負の側面の1つは、経済主体がバラバラであることです。農協や商工会、教育や保育が分かれている中で地域コミュニティを支えることは難しく、縦割りの弊害があります。地域住民が自ら憲章を作って新住民が増えた事例もあります。地域に残る家の格付け、男性優位など非民主的マネジメントをしているところは現代人に受け入れられにくいです。地域マネジメントの難しさも大きな課題と考えています。有識者理事から学ぶ専門分野から2030年のビジョンを踏まえて、コープに期待することや情報をご提言いただきます。「生活場の変化」
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