近ちかもと本 聡さとこ子さん 社会学者・元愛知学泉大学家政学部教授ご専門分野は、社会学、家族論、子育て支援論などです。2022年6月よりコープあいち有識者理事。有識者理事とは学識者や弁護士、会計士などの専門家として、社会的な 視野からの意見を生協の運営に反映させ、生協の日常的な業務執行の状況についても専門家の立場から監督します。新しい商品には普及する前に拒否感はある今後ますます働き手が不足する日本で、外国人労働者の受け入れは難しいと考える人もいると思いますが、私は文化変容ということを考える中で、日本でも今後否応なく受容していく可能性が十分あると思います。その文化変容について「紙おむつ」を題材に考えてみたいと思います。文化が変容するということグローバル化とそれに伴う文化変容は日本でも必須だと思います。私は2020年に、2025年には出生数80万人を切ると予測のグラフを出しましたが、その通りになりました。なんせ日本列島に人がいなくなるのですから。グローバル化も含めて文化変容の背景となる「違う集団」が出会ったとき、どんな文化変容が起こるかを考えましょう。それには4つのパターンがあるといわれています。1980年代、紙おむつは保育所で使用の賛否が分かれ、「排尿感覚が発達しない」「非経済的かつ環境にもよくない」と大反対派の行動があったと思います。紙おむつを使うかどうかは選挙の投票のような判断が必要でした。こんな論争もありました。私は組合員の消費行動や活動を30年くらい分析していますが、今、生協の供給商品分類で1位なのは冷凍食品ですね。しかし冷凍食品が出てきたころ「女性が家事を省力化するのはとんでもない」と思われていて、女性もそれを社会規範として受け入れていたので、推奨には大反発がありました。また電子レンジ調理は、今や当たり前になっていますが、当時は「電磁波が体に悪い」とまことしやかに流布していました。2①「Segregation(セグリゲーション)」は峻別され放置されることで、紙おむつの初期は非常にセグリゲーションされたと思われます。②融和的なのは「Integration(インテグレーション)」で、歩み寄り影響を与え合うということで、例えば大学生協では「ハラール食を出しましょう」と異文化に歩み寄っています。日本の食文化はまさにここで、カレーの発祥はインド、でも日本でも発達し、子どもの好きなメニューになっています。 ③「Assimilation(アシミレーション)」は同化作用が強い場合、強い方に似た振る舞いをしていくことです。最後が④「Marginalization(マージナライゼーション)」で、周縁で存在し結構な数はあるが、センター(中心)にはなれない人々やもの。紙おむつは周縁化を経ないでセンターに来て、100%に近い利用状態になったのです。これを達成したのは消費者のくらしのニーズであったと思います。文化的なコードを変えてみる文化変容を考えるのに基準とするのは文化的な「コード(文法・規則・規範)」です。まず文化とは何でしょう。それは生活の仕方です。各人がどういうふうに生活するか、日本では自由に選べます。みなさん自分なりのコードで生活していると思いますが、例えば洗濯の仕方一つとっても家庭科で習ったり、コマーシャルで知ったりして、コードを作ってきました。今あるコードを変えていくのが、面白いものを作っていく原動力になり、文化変容が起こるのです。知らないコードを知り、理解するとグローバル化するときに、多様性を受け入れられる素地を作るということになるのではないでしょうか。4人間拡張の理論人は「もっとしたい、できるようになりたい」と、求めるモノやアビリティ(能力)を必ず追求します。速く走りたくて車ができ、空を飛ぶ飛行機ができました。現代では頭脳と生命を拡張したいという欲求が強くなり、みなさんも何かしていますよね。これらは人間の欲望の噴出で、「人間拡張の理論」のベースです。この流れを見ると、生活水準をあまり下げたくない日本は、グローバル化していき、できれば融和的な文化におもしろく変わっていくといいな、と思います。135有識者理事から学ぶ専門分野から2030年のビジョンを踏まえて、コープに期待することや情報をご提言いただきます。文化変容と動態の捉え方 ~紙おむつはなぜ拒否られた?~グローバル化の時代にどう対応していくか、文化変容という考え方を学んでいただき、世代間相違も含めて「多様性」を受け入れ理解をする一助になればと思います。
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