ゆっくり食べましょう、と聞いたことがある人は多いでしょうか。
そうするのがいいのは当たり前だと思われているかもしれません。
では、なぜゆっくり食べたほうがよいのか、言えるでしょうか?
実は、この問いに科学的根拠をもって答えられるようになってきたのは最近のことなのです。
早食いと関連がある健康状態として、肥満が知られています。図1は早食いと肥満の関連を成人で調べた結果です(文献1、2)。BMIはボディ・マス・インデックスという指標で、体重(kg)を身長(m)で2回割り算して計算される値です。身長の違いに関わらず肥満の度合いを調べることができ、25を超えると「肥満」とされます。この図から、食べる速さが「かなり遅い」群に比べて「かなり速い」群のほうが、BMIが大きく、特に中年男性では肥満の基準である25に近づいていることが分かります。
この理由のひとつとして、早食いの人はよく噛まなくても食べられるようなものを食べていて、それが肥満に影響している可能性があります。実際に、図1対象者のうち若年女性では、早食いの人ほど食物繊維摂取量が少ないことがわかっています(文献2)。そして、食物繊維が少ないことが、肥満になりやすい要因のひとつと考えることができます。
図1.食べる速さと肥満の関連(成人)/食べる速さが速ければ速いほど肥満の指標であるBMIの値が高くなっています。この理由として、食べるのが速い人は、食物繊維などの肥満を防ぐ栄養素の摂取量が少なく、よく噛まずに食べられるものを食べている可能性が挙げられます。
一方、大人だけでなく、子どもの肥満も深刻です。そして、食べる速さは子どもの肥満の出現率にも強く関連していることが、沖縄の小中学生を対象に行われた研究で明らかになっています。図2で示したように、食べる速さが「かなり遅い」子どもたちに比べて、「かなり速い」子どもたちの肥満の割合は、小学生も中学生も、男女ともに多くなっていて、とくに中学生男子では19倍となっていました(文献3)。この場合は大人と違って、食物繊維などの食事の内容には影響がないことが分かっています。
図2.食べる速さと肥満の関連(沖縄の小中学生)/小中学生でも食べるのが速い子どもほど、肥満の割合が多くなっています。ゆっくり食べようのメッセージは、特に子どもたちに伝えるべきものなのかもしれません。
早食いと肥満との、はっきりした因果関係はまだ解明されていませんが、統計からは「早食いの人ほど肥満の割合が高い」と見てとれます。 食卓に並べられた食べ物は、どんなふうに作られ、どのように料理され、どんな味がするのか、そんなことを語りながら目の前にある食事をゆっくりいただくことが、健康を守るひとつの秘訣なのかもしれません。さあ、みなさんのご家庭でも、ゆっくり食べるための食卓づくり、始めてみませんか。